東京大学先端科学技術研究センター(経済安全保障インテリジェンス分野)主催による特別公開シンポジウム「アレクサンデル・ストゥブ フィンランド大統領来日講演」が開催されました(2025/06/10)。

藤井輝夫総長は、日・フィンランド外交関係は1919年に開始され、教育・科学・文化などで長年の友好関係が築かれてきており、Beyond 5G/6GセミナーやU Tokyo IPCとヘルシンキ大学とのMOUなど、近年はテクノロジー・スタートアップ分野でも連携が進んでいることに言及しました。

先端研の杉山正和所長は、科学技術に限らず、経済安全保障・国際関係・社会的包摂といった幅広い分野の研究者を抱える「実験的な融合拠点」であると指摘。また、先端研では新たに「経済安全保障インテリジェンス分野(ESIL)」を設立し、世界の政策リーダーとの対話・協働を進めていることを紹介。対面での信頼醸成と国際対話の重要性を強調しました。

アレクサンデル・ストゥブ大統領は、自身が執筆中の書籍『Triangle of Power』を基に、現在の国際秩序の変動について講演。歴史的な変曲点(1918年・1945年・1989年)に匹敵する変化が現在起きていると指摘し、「秩序」「バランス」「力学」の3つの視点から世界の再編を論じました。

第一に「秩序(Order)」について、冷戦後の単極体制(米国主導)から多極的無秩序へと移行しており、現在は多極的無秩序と多国間秩序のどちらが勝るかという競争状態にあると説明しました。

第二に「バランス(Balance)」について、世界は「グローバル・ウェスト(欧米・日本など)」「グローバル・イースト(中露など)」「グローバル・サウス(新興国・途上国)」の三極構造に再編されており、今後の世界秩序の帰趨はグローバル・サウスの選択にかかっていると主張。現行の国際制度への信頼を維持するには、より多くの国に制度上の「影響力(agency)」を与える必要があると訴えました。

第三に「力学(Dynamics)」では、「競争」「衝突」「協力」という3つの動きが交錯しており、国際機関の信頼性を維持するには、制度改革を通じてグローバル・サウスを包摂する必要があると述べた。世界が向かう可能性として「混沌とした無秩序」「列強の協調」「新たな多国間秩序」の3シナリオを提示し、理想は第3の新たな多国間秩序であると結論づけました。

ストゥブ大統領と井形彬特任講師の対談では、米国の国際秩序維持への関与が縮小する中で、グローバル・ウェストにおける新たなリーダーシップの在り方が議論されました。ストゥブ大統領は、米国の関与が「価値」から「取引(トランザクション)」中心に変化しているとしつつも、NATOへの関与や日米関係を重視する姿勢は維持されるとの見解を示しました。
日本と欧州の関係性については、「心が通い合う時代(hearts flying)」に入りつつあり、経済安保や海底ケーブル、AI・量子・バイオなどの先端技術領域での協力が今後深化すると指摘。また、日欧間でも複数国間のミニラテラル協力の拡大が見込まれると述べました。



講演後には、ESIL関係の学生らとのクローズドなランチが設けられ、次世代を担う学生たちが少人数でストゥブ大統領と直接交流し、率直な意見を交わす貴重な機会となりました。
講演会のYoutube動画はこちらからご視聴ください。

